研究概要 |
細菌および植物に由来する2つのドメインからなるキチナーゼ(ChiCとOsChia1b)の結晶性α-キチンに対する結合モデル作製および溶液散乱実験を行った。これら2つのキチナーゼの活性ドメイン(C末端)は互いに共通のフォールドを持つが、N末端のキチン結合ドメインのフォールドは大きく異なる。まず、ドッキングシミュレーションによりOsChia1bの結合ドメインに対するN-アセチルキトトリオースの結合を検証し、得られた複合体モデルをもとにα-キチンへの結合モデルを作製した。ChiCについては、研究代表者らが提唱した既存のモデル(Kezuka et al.,J.MoL Biol.2006)をもとにα-キチンに対する結合モデルを作製した。OsChia1bの結合ドメインはα-キチン表面に露出していると考えられる(100)あるいは(200)面の双方と立体障害を生じた。一方、ChiCの結合ドメインは(100)面に相補性が高い構造をしていることが分かった。OsChia1bはキチンの非結晶性領域、ChiCは結晶性領域への結合に適していることが推察された。 溶液散乱実験は、高エネルギー加速器研究機構のビームラインBL15Aにおいて行い、いずれのキチナーゼにおいてもタンパク質濃度6点において散乱データを収集することができた。散乱データの解析はOsChia1bを先に進め、慣性半径R_g(22.9Å)と最大長D_<max>(86Å)を得た。これらは、研究代表者らによって決定された結晶構造から計算された理論上のR_gおよびD_<max>より大きい値を示した。また、距離分布関数p(r)には、活性ドメイン内ベクトルおよび2つのドメイン間ベクトルに相当するピークが得られた。以上より、OsChia1bは溶液中においては、より伸びた全体構造を取っており、それはドメイン間のリンカーの高い柔軟性によりもたらされることが考えられた。
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