研究概要 |
キチナーゼDの活性ドメイン(CatD_<ChiD>)について構造精密化を行った。CatD_<ChiD>単独および阻害剤であるアロサミジンとの複合体の結晶構造をそれぞれ1.86Aと1.89A分解能で精密化した。最終的なR-factorとFree R-factorは、CatD_<ChiD>単独に対しては、それぞれ14.6%と18.2%、複合体に対しては、15.4%、18.9%であった。アロサミジンは疑似三糖構造を有しており、基質が結合すると予想される浅いクレフトに結合していた。この結合様式は、基質結合を模微しているものと考えられた。これにより、クレフトの一部を構成するループが触媒残基の方へ3.0Aシフトする構造変化が観測された。このような構造変化は、CatD_<ChiD>と53%のアミノ酸配列のアイデンティティを持つBacillus cereusキチナーゼ(ChiNCTU2)においても基質結合により起こることが報告されている(Hsieh et al., J. Biol. Chem. 2010)。一方で、両者には以下のような相違点も見つかった。1)基質あるいは阻害剤の結合によるループのシフトの度合いは、ChiNCTU2の方が4.5Aと大きい、2)このループ上に位置するChiNCTU2のGln109は、基質結合に極めて重要であることが示されているが、CatD_<ChiD>においては、このアミノ酸が保存されておらず、Ala266がそれに相当する。これらの相違が、キチナーゼDの基質結合や触媒活性にどのように関与するのかは興味深い点である。今後部位特異的変異体を調製し、酵素学的解析や基質複合体の構造解析を進めることで、基質結合および触媒反応機構に迫れるものと考えられる。
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