研究概要 |
ピリドキサール酵素として,セリンパルミトイル転移酵素(SPT)とトレオニン合成酵素(TS)の多元的エネルギー解析を行った。SPTについては立体化学的反応制御機構を既に明らかにしたが,その反応機構をさらに詳細に検討し,種を越えて保存されているArg370が基質のカルボキシル基とイオン対・水素結合を形成することで基質・補酵素の配向を反応の各段階で決定する重要な役割を有していることを明らにした。 TSは基質O-ホスホホモセリンからL-トレオニンを合成するが,副反応として,α-ケト酪酸を生成する。この反応は正常の反応の2%以下に抑えられているが,その高い反応特異性をもたらす機構が長らく不明であった。α-アミノクロトン酸中間体を直接生成するL-ビニルグリシンを基質として用いるとL-トレオニンを生成せず,α-ケト酪酸のみが生成するが,これをリン酸イオン存在下で行うと,O-ホスホホモセリンを基質としたときと同様の反応特異性とk_<cat>値をもってL-トレオニンが生成した。このリン酸イオンの効果は硫酸イオンで代替することはできず,α-ケト酪酸のみが生成した。さらにグローバル遷移相速度論的解析,自由エネルギー解析を行ったところ,TSの触媒反応では基質O-ホスホホモセリンからα-アミノクロトン酸中間体が生成する際に遊離したリン酸イオンが活性部位に残り,それがα-アミノクロトン酸中間体への水分子の付加の過程において一般塩基触媒として働くことが示された。これは生成物支援触媒が反応特異性を支配する興味深い例である。 キノン酵素としてArthrobacter globiformisアミン酸化酵素の還元的半反応を広pH領域において行い,活性部位のAsp298のプロトンか状態が互変異化の過程のみならず,加水分解等他の過程においても重要であることを見出した。
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