研究概要 |
ピリドキサール酵素については,平成22年度の研究で明らかになったトレオニンシンターゼの「生成物支援触媒」というユニークな反応機構を詳細に解析した。この酵素の広pH領域における遷移相速度論的解析をもとに,多次元エネルギー解析を行った。こうして得られた三次元エネルギー準位図のトラジェクトリーの両側を挟むポテンシャルの壁を構成する構造の解析を,生成物支援触媒の中心であるリン酸イオンを結合する残基の変異を通じて行った。その結果,Arg160がこの構造の土台となっていること,またAsn154がリン酸イオンの位置を調整し,ポテンシャルの壁の構造を,トレオニン生成へのトラジェクトリーを切り拓くように整形していることが明らかになった。 さらに,広pH領域における反応の解析の結果,高いpHにおいては,L-トレオニンとの反応において,従来は植物のTSにのみ見られると考えられてきたアロステリック効果が見出され,植物のTSのアロステリック効果の起源についての考察を可能にした。 キノン酵素については,銅アミン酸化酵素において抗凍結剤を以前の1.8Aの分解能の結晶で使用していたグリセロールからPEG200に替えることによって,分解能の大幅な向上(1.08A)に成功した。この結果,活性中心付近において酸化的判反応の基質である酸素分子と考えられる電子密度が観測された。これによって銅イオンと酸素分子の反応の通り道が明らかになった。また,高分解能の結晶が得られたことから,異方性温度因子からアミノ酸残基のゆらぎについての情報が得られるようになった。特に,Arg381の側鎖がビルトイン補酵素トパキノン方向に大きく揺らいでいることは,本酵素のプロトントンネリングを可能にする構造的要因を明らかにするものである。
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