研究概要 |
筋小胞体Ca^<2+>-ATPaseのP-Nヒンジ領域に存在するイオンペアR556-E644およびD557-R638に変異を導入しその影響を調べた。その結果R556およびR638を負電荷すなわちGlu及びAspに置換した変異体においてE1PからE2Pへの変換速度に顕著な抑制が見られたが、負電荷を持つ側鎖(D557,E644)をArgに置換した変異体では顕著な変化は見られなかった。またR556,R638への負電荷の導入によるE1P変換の抑制は対を成す側鎖へのArgの導入により解除されることが見出された。この結果はE1PからE2Pへの転換過程においてこのイオンペアが何か役割を持っているというより、この領域に正電荷が過剰になるとE1PからE2Pへの変換が抑制されることを示している。すでに知られている分子モデルを元に、P-Nドメインのみを抜き出して電場を計算し変異導入による電場の影響を予測したところ、野生型ではP-Nドメイン間にE1P-E2P転換に伴う動きの向きに電気力線がならんでおり、E1P変換に影響の無かった変異体でもこの電気力線の流れが保存されていたが、E1P転換の抑制が見られた変異体では電気力線流れが大きく乱されていた。またE1P変換速度の回復した戻し変異体では電気力線の流れも回復していることが明らかになった。以上の結果、筋小胞体Ca^<2+>-ATPaseのE1P-E2P変換においてP-Nドメイン間の静電的相互作用が大きな役割を持つことが示唆された。
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