前年度までに、筋小胞体Ca2+-ATPaseのE1P-E2P転換速度の変化および電気力線の変化から、この酵素のP-Nヒンジ領域の電荷がE1P-E2P転換ステップに重要な役割を持つことを明らかし、横軸に活量係数の2乗、縦軸に反応速度の対数をとるプロットにより静電的相互作用の影響とそれ非静電的な力の定量化が出来るようになった。今年度はK+によるCa2+-ATPaseに対する特異的な効果と塩濃度の影響についてさらに詳細な検討を行った。 野生型Ca2+-ATPaseについて反応溶液中のKCl濃度を0.1Mから1Mまで変化させてEP転換の速度を測定したところ、KC1濃度の上昇に伴いEP転換速度の減少が見られた。KCIの代わりにNaCl濃度を変化させても同様の結果が得られたが、LiCl及びcholine-Clの場合はイオン強度を上昇させてもEP転換速度は大きく変化せず、choline-Clの場合はむしろ速度が増した。次にKCl濃度を0.1Mに固定しLiClあるいはcholine-Clでイオン強度を変化させたところKCl単独でイオン強度を変化させた場合とほぼ同様の結果が得られた。この結果はKCl濃度上昇で見られたEP転換速度の低下がK+を結合したCa2+-ATPaseにおいて起きる現象であり、かつK+上昇によるものではなくイオン強度の上昇の影響であることを示している。 P-Nドメイン間の電気力線を描画すると、EP転換ステップでP-Nドメインの動く軌跡に沿った形になり、この形状からP-Nヒンジから離れた残基間の相互作用が予想できた。そこでこれら残基の変異体を作成しその影響を調べた結果、新たに作成したこれら変異体でもEP転換での静電相互作用による促進が弱くなることが示された。これは速度vs活量のプロットが、新たな静電的相互作用を予測し検証できたことを示している。このプロットは他の酵素反応でも有用であると考えられ、反応解析の重要なツールとなると思われる。
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