研究概要 |
ヒトのトリプトファニルtRNA合成酵素(TrpRS)はtRNAにトリプトファンを結合させるアミノアシル化反応を触媒する酵素である。ヒト細胞内には2種類のTrpRSが存在する。一つはfull-length TrpRSであり、もう一つはalternative splicingにより産生するmini TrpRSである。full-length TrpRS, mini TrpRSは、ともにアミノアシル化活性を持っている。私は、以前、mini TrpRSが細胞外で血管新生抑制因子として働き、他方、full-length TrpRSは血管新生の制御因子として活性はないことを見出した。今回、full-length TrpRSとmini TrpRSの細胞内での働きの違いについて検討した。その結果、mini TrpRS内のCys62の反応性がfull-length TrpRS内の場合より、著しく増加していることを発見した。また、今回、多機能性蛋白質であるTrpRSの機能の分子進化の解明を目指す研究も行った。具体的には、ヒト以外に、ウシ、マウス由来のTrpRSをクローニングし、大腸菌での発現ベクターを作製し、さらに、蛋白質の精製方法を確立した。ヒト以外のウシ、マウスのTrpRSのアミノアシル化活性は、ヘムあるいは亜鉛イオンの存在には依存せず、常に活性が高いことが明らかになった。この結果は、ヘムあるいは亜鉛イオンと結合した時のみアミノアシル化活性があらわれるヒトのTrpRSとの違いを明らかにした。さらに、蛋白質工学を駆使し、ヒトTrpRSを常時活性型に、ウシTrpRSをヘムあるいは亜鉛イオン依存型に相互に変換することにも成功した。
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