生物は絶えず変化する生活環境に迅速に適応するため、ストレス応答MAPキナーゼ情報伝達経路を備えている。この経路は全ての真核生物で保存されており、高浸透圧環境によって活性化される出芽酵母のHOG経路はその原型といえる。環境ストレスへの応答には、経路を素早く適切に活性化させる正の制御機構に加え、不適切、あるいは過剰な経路の活性化を抑えるための負の制御機構も極めて重要である。本年度はHOG経路のSHO1上流支経路活性化に必須なSte50がHOG経路のMAPキナーゼであるHog1によりリン酸化され、その結合因子であるOpy2との結合が阻害されシグナル伝達が遮断される、という負のフィードバック機構について実験的に検証した。その結果、Ste50は高浸透圧により活性化されるHog1に加え、接合因子により活性化されるKss1やFus3によってもリン酸化をうけること、Ste50はリン酸化をうけるとOpy2との結合性が低下することを示した。さらにリン酸化をうけない変異型Ste50蛋白質を発現する細胞では高浸透圧刺激によるHOG経路活性化が遷延すること、接合経路を活性化させるとFus3/Kss1によりSte50はリン酸化されるため、続いて高浸透圧刺激を与えてもHOG経路の活性化は低いレベルに抑えられることがわかった。以上より、Ste50のリン酸化に伴って生じるOpy2との結合性の低下を通じて、MAPK経路内及び異なるMAPK経路間で負の活性制御機構が働いていることが明らかになった。
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