ビタミンなど栄養素が適切に作用するためにはタンパク質、特に酵素の働きが重要である。ビタミンB_<12>(B_<12>)は葉酸・メチオニン代謝に関与しており、近年、ホモシステイン代謝との関連からもメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)と同様、注目されている。今回、このB_<12>を補酵素とするメチオニン合成酵素(MS)とその補助酵素であるメチオニン酵素還元酵素(MSR)の性質について研究を行った。MSRの機能を明らかにする目的で、精製ヒトMSとMSRを用いて活性測定方法の確立を試みたが、本研究期間内に達成することはできなかった。最も大きな原因は、MSR単一分子が行うMSの活性化が一回で、複数回の活性化を観察することができなかったことである。MSRを調節する因子が、触媒回転に必要ではないかと考え、可能性の高い物質を添加し活性の検出を試みたが、現在までに継続的触媒に寄与する因子は発見できていない。MSRは、MSの再活性化に必須であるが、触媒作用を複数回行う酵素というよりも、むしろ再活性化因子である可能性も考えられる。また、MSRはMSのB_<12>の取り込みにも関与するが、MS自体によるB_<12>の取り込み機構の解析も必要である。しかし、哺乳類MSのアポ酵素(B_<12>と結合していないMS)は非常に不安定で、精製哺乳類アポMS得ることは不可能であった。そこで一般にタンパク質が安定な好熱菌由来MSに着目し、MS類似遺伝子がThermus thermophilus HB8遺伝子に存在することを確認した(tMS)。このtMSは哺乳類MSと高いアミノ酸配列の相同性をもつ4ドメインから構成されると考えられ、良いモデルになると考えた。そこで組み換え体tMSの発現・精製系の構築を試み、成功した。予想通りtMSのアポ酵素はホロ酵素に比べて不安定であったが、アポ酵素は摂氏60度・15分の保温耐えるものであり、通常のタンパク質を取り扱う環境(常温)では非常に安定であった。このtMSの発現・精製系は、今後のB_<12>の機能を詳細に解析する上で非常に有用であると考えられる。
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