細胞内において脂質は細胞膜の構成成分であり、細胞の恒常性の維持などに重要であると共に、刺激に応答して細胞内外で情報伝達物質としても働いている。しかしながら、細胞でどのようにして脂質メディエーター等の両親媒性情報伝達物質が輸送されるか、特に細胞外への膜を介した放出機構についてはほとんど分かっていない。我々はこの機構が情報伝達におけるmissing linkと考えその全容の解明を目指している。我々はその中でも、スフィンゴシン1リン酸(S1P)の細胞外への放出機構に着目し解析してきた。本年度は、赤血球のS1P輸送体の性質の生化学的な解明を進めた。 赤血球の反転膜を用いてS1Pの輸送活性を測定できる系を構築することに成功し、S1PはATP依存的に輸送されることを明らかにした、しかしこの輸送はATPの加水分解を必要としないことを見い出した。さらに赤血球の輸送体は血小板の輸送体と同じようにglyburideで阻害され、さらにvanadateやbafilomycinA1でも阻害されることが分かった。このS1P輸送体はこれまで知られている輸送体とは異なる新しいタイプの輸送体であると考えられる。 また、昨年度ゼブラフィッシュにおいて同定したS1P輸送体spsn2の哺乳動物オルソログやホモログの解析を進めた。ヒトにはspns1から3まで3種類のホモログが存在するが、我々が構築したCHO細胞にスフィンゴシンキナーゼを発現させた細胞を用いたS1P放出アッセイではspns2のみがS1P放出能を持ち、spns1およびspns3は細胞膜に局在せず、細胞外へS1Pを放出できなかった。これらの蛋白質は組織での発現部位が異なっており、その組織、細胞において異なる機能を持っていることが推測された。
|