昨年度に引き続きスフィンゴシン1リン酸(S1P)輸送体の普遍的な機能を明らかにすべくSPNS2ホモログの解析を進めた。まずS1P輸送体Spns2の2種類の相同体の遺伝子がコードする蛋白質が細胞膜ではなく細胞内膜、主にリソソームに局在することを明らかとした。この輸送体は細胞膜に局在しないためS1Pを細胞外へ放出する輸送体として機能しなかったが、細胞膜に局在させることでS1P輸送体として機能する可能性が考えられた。そこで細胞膜に局在するSPNS2とのキメラを作ることで、細胞膜に局在させることに成功した。しかしこのキメラ蛋白質は細胞膜において細胞外へのS1P輸送体としては機能していなかった。このことは細胞内膜系に局在するSPNS2のホモログはアミノ酸配列でお互いに60%の相同性を持ち、PNS2の機能に必須の残基が保存されているにも関わらずS1P輸送体ではない別の機能を担っていることが明らかとなった。これらのSPNS2ホモログは細胞内でのスフィンゴ脂質の代謝などに関与していると考えている。一方、S1P輸送体の多様性解明のため赤血球、及び血小板における輸送体分子の同定を酵素化学的な手法と特異的なラベリングによって進めた。新しいS1P類似体の架橋剤を作成し、まずSPNS2を発現した細胞に添加したところ、弱いながらSPNS2に特異的に標識がかかることを見いだした。そこで、この架橋剤を赤血球に対して反応さると、非常に弱いいくつかの架橋バンドを得ることができた。しかし、いずれのバンドでも質量分析計を用いて特定の蛋白質の配列を決定することができなかった。今後はより強く反応する条件などを検討することで分子の同定につながると考えている。
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