本年度は、骨格筋におけるインスリン依存性糖取り込みのシグナル伝達系の解析を主に行った。とくに、筋芽細胞株L6を用いて、我々が明らかにしたRac1を介する経路とセリントレオニンキナーゼAktを介する経路の関係について検討を進めた。昨年度までに、1.恒常的活性型Rac1の発現によりAktのリン酸化が誘導されない、2.インスリン応答性のAktのリン酸化は骨格筋特異的rac1ノックアウトマウスでも野生型マウスと同様に観察される、ことが明らかとなっていたが、これらの結果より、Rac1がAktの下流で機能している可能性が考えられるので、この可能性についてさらに検討を加えた。まず、恒常的活性型ホスホイノシチド3キナーゼ(Myr-PI3K)の異所性発現により、Rac1が活性化されることを確認した。一方、Myr-PI3Kにより誘導されるGLUT4の細胞膜への移行はAkt2のノックダウンにより阻害されるが、恒常的活性型Rac1により誘導されるGLUT4の細胞膜への移行は、同一条件下でも阻害されないことが明らかとなった。Myr-PI3Kにより誘導されるGLUT4の細胞膜への移行はAkt1のノックダウンによっては阻害されなかった。また、Myr-PI3Kにより誘導されるGLUT4の細胞膜への移行は、Rac1のノックダウンにより完全に阻害された。以上の結果より、PI3K-Akt2-Rac1というシグナル伝達を介して、GLUT4の細胞膜への移行が誘導され、糖取り込みが起こる可能性が支持された。
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