研究課題
NF-κBは炎症応答や発がんで中核的な役割をになう転写因子であり、サイトカインによるNF-κBの活性化にはIKKβによるNF-κB阻害タンパク質のIκBαのリン酸化と分解が関与することが知られている。一方、紫外線(UV)などのストレスを細胞に負荷した際にもIκBαの分解が誘導されるが、IKKβの欠損細胞では分解が観察されない。ところがIKKβの欠損細胞にキナーゼ活性を欠損するIKKβを再構成した際にもIκBαの分解が誘導される事から、細胞内ストレスに応答したNF-κBの活性化にはIKKβのキナーゼ活性は不要であることが確認された。さらに詳細な解析により、細胞内ストレスに応答したIκBαの分解では、IKKβはキナーゼとして機能するのではなく、ユビキチンリガーゼβTrCPとIκBαの会合を介在するアダプタータンパク質として機能する事が解明された。まずストレスが負荷された細胞では細胞質に存在しているIκBαが核内に移行して核内のIKKβに会合し、βTrCPによるユビキチン化を受けて分解される。興味深いことにサイトカインにより活性化されたNF-κBはIκBα遺伝子やA20などのネガティブフィードバック制御機構に関連した遺伝子や、BclXLなどの抗アポトーシス遺伝子の発現を誘導するが、ストレス負荷時に活性化されたNF-κBはネガティブフィードバック制御機構関連遺伝子の発現を誘導しないだけでなく、抗アポトーシス遺伝子の発現を抑制することにより細胞死に対して促進的に機能することが明らかにされた。そこで肝細胞特異的なIKKβのノックアウトマウスにアデノウイルスを用いて、アダプター機能のみを有するIKKβ変異体と、キナーゼ活性のみを有するIKKβ変異体を導入し、さらにリポポリ多糖やコンカナバリンAによる炎症応答を解析したところ、アダプター機能のみを有するIKKβ変異体を導入した場合には肝細胞死が亢進して重篤な肝障害が引き起こされることが判明した。
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http://first.lifesciencedb.jp/archives/1010(2010)