ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)は、生理活性脂質であるジアシルグリセロールとボスファチジン酸の細胞内濃度を調節し、細胞の生理機能を制御していると考えられている。本研究では2つのDGKアイソザイム(η及びα)についてそれぞれの生理機能の制御機構について検討した。HeLa細胞にsiRNAをトランスフェクトし、DGKηをノックダウンすると、上皮増殖因子(EGF)刺激によって誘導されるERK1/2及びその上流のMEK1/2のリン酸化を顕著に阻害した。さらに、MEK1/2の上流のRaf(B-Raf及びC-Ratsキナーゼ活性及びB-RafとC-Rafの相互作用の解析を進めたところ、EGF刺激により誘導されるC-Rafキナーゼ活性及びB-Raf-C-Raf相互作用のいずれもがDGKηの発現抑制により顕著に阻害された。以上の結果から、DGKηは増殖因子に応答してB-RafとC-Rafの相互作用を制御し、MEK1/2-ERK1/2経路を活性化することが示唆された。一方、別のアイソザイムであるDGKaはメラノーマ細胞における腫瘍壊死因子α(TNFα)刺激によるNF-κB活性化に関与している事から、その詳細な検討を行った。NF-κBのp65/RelAサブユニットはTNFa刺激によりプロテインキナーゼC(PKC)ζ(DGKの反応産物であるボスファチジン酸で活性化される)とIκBキナーゼで異なるセリン残基がリン酸化されるが、DGKaのノックダウンを行うことにより、PKCζでリン酸化される311番目のセリン残基(Ser311)のリン酸化が抑制された。PKCζのノックダウンを行うとDGKaのノックダウンと同様、p65/Re]AサブユニットのSer311のリン酸化が抑制された。また、PKCζの過剰発現あるいはノックダウンはそれぞれDGKa依存性のTNFa刺激によるNF-κB活性の増大あるいは減弱した。以上の結果より、メラノーマ細胞におけるシグナル伝達系、TNFα-DGKa-、NFKBという経路の中にPKCζが含まれることが示唆された。
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