研究課題
本研究は、遺伝子欠損によりSHAP-HA複合体の形成不能のマウスを用いて、炎症病態におけるSHAP-HA複合体の役割を解析した。平成21年度の結果を以下に報告する。(1)肝損傷モデル:リポ多糖エンドトキシン(LPS)/D-ガラクトサミン(GalN)による肝障害モデルでは、野生型マウスに比べて、SHAP欠失マウスの肝臓損傷は顕著に軽かった。まず、LPS/GalN投与後の生存率は、野生型マウスでは0~20%で、SHAP欠失マウスでは90%で、有意に高かった。次に、血液生化学指標(ALT濃度)や肝組織の病理学検査においても、SHAP欠失マウスは軽症であることが認められた。さらに、肝臓類洞内皮にSHAP-HA複合体の沈着を確認し、SHAP欠失マウスでは好中球細胞の類洞内皮への接着が4割程度低下したことを見出した。これらの結果は、SHAP-HA複合体が類洞内皮に存在し、接着分子として好中球細胞の粘着や浸潤を促進し、LPS肝障害の発症に関与することを示唆した。(2)肺疾患モデル:卵白アルブミンによる喘息モデルでは、SHAP欠失マウスの気道過敏性が、野生型マウスより亢進したことを見出した。SHAP欠失マウスでは、肺洗浄液中のIL12とsTNFR1の濃度が低下していた。IL12はTh1細胞を活性化し、気道過敏性を抑制的に働くことが報告されている。一方、sTNFR1がTNFaのシグナル伝達を阻断する作用がある。これらの抑制因子の濃度低下は、Th2優位のアレルギー反応である気道過敏性を亢進させたと推測する。また、SHAP欠失マウスでは気道上皮の修復が遅れていた。損傷後気道上皮の修復には、Vitronectin分子が必要であることが報告されている。本研究は、生化学手法により、VitronectinとSHAPと相互作用することを確認できた。SHAPのもう一面の生理機能を明らかにした。
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ますます重要になる細胞周辺環境の科学技術-細胞の生存、増殖、機能のコントロールから再生医療まで(株式会社メディカルドゥ)
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