H23年度の研究成果を下記する: (1)脳出血モデル: 脳卒中や外傷など出血が伴う場合、脳組織に豊富に存在するHAやSHAP-HA複合体が組織修復に関与すると推測した。基底核へコラゲナーゼ注射によるマウスの脳出血モデルでは、SHAP-HA複合体が、出血前に殆ど存在しないが、出血後に顕著に増加したことを確認した。手術後1日目には、野生型マウスに比べて、SHAP欠損マウスの脳の水含量が有意に高かった。3日後の行動解析による神経障害評価では、SHAP欠損マウスの障害が有意に重かった。解剖所見でも、SHAP欠損マウスが脳内血塊の容積が有意に大きかった。ヒアルロン酸合成酵素1(HAS1)欠損マウスの脳HA含量が約2割低下したが、コラゲナーゼモデルでは、野生型マウスと有意な差を観察できなかった。しかし、損傷度の低い尾状核へ自家血注射による脳出血モデルでは、HAS1欠損マウスでは、HAの含量低下と低分子が顕著で、神経障害も有意に高かった。これらの結果は、脳出血におけるHAやSHAPの抑炎作用と神経細胞保護作用を示唆する。 (2)ヒトTSG-6のアミノ酸置換変異体、linkやCUBドメインの置換変異体のcDNAをHLF細胞内へ導入し、培養上清中の酵素活性を測定した。HA結合に必須とされるアミノ酸の置換では、Y47F変異体は活性を示さなかったが、F105V変異体は活性が保たれていた。linkドメインとCUBドメインの単独又は混合液ともに活性を示さなかった。linkとCUBの間にある短いアミノ酸配列は重要で、アミノ酸1残基を挿入しても、活性が完全に失う。 (3)グリオーマ細胞は、無血清の基本培地でも、2週間程培養でき、しかも、その条件下で酵素因子の分泌が促進されることを見出した。酵素因子の精製がより効率化となり、精製工程がほぼ樹立された。酵素因子の同定の準備ができた。
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