研究概要 |
α2,6-シアル酸の付加によって血管内皮細胞の機能がどのような分子メカニズムで制御されるか明らかにするために、α2,6-シアル酸の生成を担うシアル酸転移酵素ST6Gal Iを遺伝的に欠損させたノックアウトマウス(α2,6-シアル酸欠損マウス)と、コントロールマウス(野生型マウス)の比較解析を行った。まず第一に、両マウスの肝臓から血管内皮細胞を単離し、解析した結果、α2,6-シアル酸欠損細胞では、血管内皮細胞の主要な接着分子であるPECAMの局在変化が起きていることが分かった。また、PECAM自体にα2,6-シアル酸が結合していることも明らかにした。通常、PECAMは細胞表面、中でも細胞間接着部位に濃縮して存在してPECAM同士が相互作用しているのに対し、α2,6-シアル酸欠損状態ではPECAMが細胞表面にとどまることができず、細胞内に取り込まれていた。この分子的背景として、PECAMがシアル酸依存的にホモフィリックな相互作用をしていることをin vitroの実験系で明らかにした。PECAMは、ストレス刺激に応じて細胞内領域がリン酸化して、脱リン酸化酵素(SHP2)を呼び寄せ、多数のシグナル分子の脱リン酸化を通じて細胞死を抑制する働きを持つ。しかし、α2,6-シアル酸欠損細胞ではPECAMのリン酸化やSHP2のリクルート量が減少していた。そのため、α2,6-シアル酸を欠損した血管内皮細胞は、アポトーシス誘導刺激でより多くの細胞死を誘導していることが明らかになった。(J.Biol.Chem.285, 6515-6521 (2010))
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