研究概要 |
細胞の集団に自発的な協調運動を誘引させるため,I型コラーゲンのゲル上に上皮細胞(MDCK細胞)を播種し,以下の実験を行った. (1)細胞-基質問の接着構造の解明 RNA干渉法によってlaminin-10のサブユニットであるlaminin-α5の発現を抑制したところ,コラーゲンゲル上での協調的な集団運動が阻害された.このことから,軟らかい基質上の細胞集団は細胞外基質にlaminin-lOの濃度勾配を形成することで協調的な集団運動を行うことが明らかとなった. (2)リーダー細胞の出現機構の解明 前年度までの実験結果から,基質の硬さに伴って上皮-間質転換が誘引され,リーダー細胞が出現することが示唆されていた.そこで,コラーゲンゲル上の細胞集団にTGF-β1受容体の阻害剤を投与した.その結果,リーダー細胞のみが運動を停止し,後続の細胞集団は運動を継続し,結果的に協調的な集団運動が阻害された.このことから,TGF-β1のシグナル経路によって誘引される上皮-間質転換がリーダー細胞の出現要因であることが明らかとなった. (3)集団運動を司るシグナル伝達経路の解明 Rac1の活性阻害剤を投与すると,リーダー細胞のみが運動を停止し,コラーゲンゲル上での協調的な集団運動が阻害された.このことから,laminin-10の濃度勾配とTGF-β1由来の上皮-間質転換をつなぐシグナル経路には,Rac1の活性が関与していることが明らかとなった.
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