瞬目反射条件付けは音を条件刺激、まぶたへの侵害刺激を無条件刺激として用いることにより、音に対してまぶたを閉じる条件応答を獲得する学習である。この学習は、ウサギにおいては無条件刺激を提示する目と同側の小脳に依存することがほぼ確定されているが、標準的なマウス系統であるC57BL/6マウスにおいては、小脳が損傷を受けた場合、代償的メカニズムにより学習する可能性が指摘されている。そこで本研究では、まず、上位中枢に機能不全を持つDBA/2マウスを用いることにより、小脳依存的メカニズムを解析することを目的とした。DBA/2マウスにおいて、学習前に条件付けられる目と同側の小脳深部核を局所破壌した場合には、学習が大きく障害されることが明らかとなった。前年度までの結果と合わせて考えると、DBA/2マウスにおいてはウサギの場合と同様に、同側小脳の深部核に強く依存して学習することが示唆された。以上の結果は小脳深部核の役割の重要性を示唆しているため、引き続き、小脳深部核の神経活動の記録・解析を試みた。まず、小脳深部核の局所場電位(LFP)の解析を行ったところ、主に歩行運動に相関の高い活動が観測され、学習応答に関連する応答は見出せなかった。次に、ワイヤ電極によるマルチユニット解析を行ったところ、歩行運動に相関する神経活動を158個、音刺激に応答する神経活動を24個、学習応答に相関するユニットを5個、無条件刺激に応答するユニットを119個見出すことができた。今回、条件刺激や無条件刺激に応答する神経活動に加えて、学習応答に関連する神経活動を、数は少ないながらも見出すことが出来たことから、マウスにおいてもやはり小脳深部核に依存して学習する可能性が示唆された。今後は、記録方法や電極の固定方法を工夫することにより、神経活動記録の精度と例数を増やして、さらに検証していく必要があると思われる。
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