研究概要 |
タンパク質の折りたたみ反応の初期過程の研究は、非天然状態にあるタンパク質に残留する部分秩序構造とそれが徐々に立体構造に成長する過程の研究である。S-S結合欠損リゾチームとピロリドンカルボキシルペプチダーゼ(PCPと略す)を用いて研究することが今年度の研究課題であった。S-S結合欠損リゾチームの研究においてCys6-Cys127間にだけ1本S-S結合を残す1SS[6-127]変異体とCys30-Cys115間にS-S結合を持つ1SS[30-115]変異体の構造の違いが非常に興味深い実験事実であった。その違いを残基レベルの分解能で調べるため、溶媒にグリセロールを添加する方法によって違いを顕在化させ、NMR分光法とH/D交換法を組み合わせた方法で研究を行った。その結果、明瞭な違いが残基4-15領域のA-helixの安定性にあることを突き止め、Biopolymers,97(2012),539-549に論文発表した。 PCPに関する研究においては、pD2.9で天然状態にあるPCPの主鎖アミドプロトンのH/D交換反応を温度35℃~50℃の範囲で測定した。主鎖NHのH/D交換反応は、天然構造が大きく崩壊して溶媒に露出したopen-formで交換反応が媒介されるため、非天然状態の情報も得られる。実験の結果、PCPは折りたたみ反応の開始状態であるD_1状態における構造までアンフォールディングして溶媒露出し、H/D交換反応が起きることが明らかとなった。さらに、D_1状態においてC末端の20残基ほどから成るα6-helix領域にH/D交換反応を阻害する13程度の遅延因子が存在することが分かった。すなわち、D_1状態において、すでにこのα6-helixはヘリックスを形成していることを示唆している。この結果は現在論文を準備中である。その他、グルコアミラーゼのデンプン結合ドメイン(SBD)というタンパク質の折りたたみ反応中間体を直接NMR分光法で構造解析する研究を成功させ、J.Mol.Biol.,412(2011),304-315に論文発表した。
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