鉄はほぼ全ての生物種の生存に必須な微量金属であるが、遊離の鉄イオンはフリーラジカルの生産源ともなり、細胞の機能に障害を引き起こす。細胞質の鉄はフェリチンに貯蔵されることから、鉄の細胞内動態とフェリチンの細胞内分布には密接な関係が予想される。そこで、フェリチンの細胞内分布制御機構を明らかにするために、フェリチンに結合する微小管モータータンパク質の探索を行った。 前年度は、HepG2細胞の細胞質画分をさらにサイズ排除クロマトグラフィーで分画し、フェリチンが最も多く含まれる高分子量画分に、分子サイズ上はその画分に含まれないキネシンが存在することを示した。 そこで本年度は、細胞質中でフェリチンとキネシンが複合体を形成しているか否かを明らかにするために、免疫沈降法を用いた解析を行った。HepG2細胞の細胞質画分に抗フェリチン抗体を添加し、免疫沈降を行った。沈殿のウェスタンブロッティング解析を行ったところ、キネシンは検出されたが細胞質ダイニンは検出されなかった。キネシンがフェリチンとは無関係に沈殿している可能性があるため、抗フェリチン抗体で表面コートした磁性体ビーズを用いて、遠心分離を行わずに細胞質画分からフェリチンを回収した。磁性体ビーズを用いたフェリチン画分にもキネシンが検出された。これらの結果は、細胞内の微小管に依存したフェリチンの輸送には、微小管モーター分子の中でキネシンが関わっている可能性を強く示唆している。
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