細胞増殖と癌化抑制における転写因子E2Fによる細胞運命決定機構を明らかにする為に、E2Fによるアポトーシス関連標的遺伝子の制御機構とアポトーシス抑制に重要なPI3キナーゼ経路との関連を検討した。1)癌化抑制に重要な新たなE2F標的遺伝子を同定するために、癌抑制遺伝子産物pRBの制御を外れたE2Fが特異的に発現誘導するアポトーシス関連遺伝子をDNAマイクロアレイで検索した。ヒト正常線維芽細胞を用いて、生理的にE2Fを活性化する血清刺激で発現誘導される遺伝子とE2Fの過剰発現またはアデノウイルスE1aによる強制的なE2Fの活性化で発現誘導される遺伝子を比較し、制御を外れたE2Fで特異的に発現誘導される遺伝子を数百個同定した。これらの中からアポトーシス関連遺伝子を十数個見出した。2)E2Fによるアポトーシス関連の癌抑制遺伝子ARFおよびp73の活性化に及ぼすPI3キナーゼ経路の影響をレポーターアッセイにより検討した。PI3キナーゼ経路を活性化する血清刺激もPI3キナーゼ経路のエフェクターであるAktキナーゼの活性型の導入も、E2Fの過剰発現によるARFおよびp73プロモーターの活性化を抑制しなかった。またPI3キナーゼ経路の阻害剤は、血清刺激後の両プロモーター活性を増強(脱抑制)しなかった。従って、PI3キナーゼ経路は、E2FによるARFおよびp73遺伝子の発現制御に影響しないと考えられた。3)ウェスタンブロット法を用いて、細胞増殖を促進する生理的なE2Fとアポトーシスを誘導するpRBの制御を外れたE2Fの生化学的な差を検索した。その結果、血清刺激によって誘導された生理的なE2F1とE2F1の過剰発現またはアデノウイルスE1aによって誘導された制御を外れたE2F1とで少なくとも3本のバンドを検出し、両者の間でその比率に差があることを見出した。
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