細胞増殖と癌化抑制における転写因子E2Fによる細胞運命決定機構を明らかにする為に、E2Fによるアポトーシス関連遺伝子の制御と、そこに及ぼすPI3キナーゼ経路の影響を検討した。 1.脱リン酸化処理を用いたウェスタンブロットから、アポトーシス関連遺伝子を活性化するpRBの制御を外れたE2F1は、増殖関連遺伝子を活性化する生理的なE2F1と比較して低リン酸化状態であることが示唆された。両者でリン酸化の異なるアミノ酸を同定するために、E2F1のリン酸化を受けうるアミノ酸を受けないアミノ酸に置換した変異体を作製し、細胞に発現させて高リン酸化状態にならないアミノ酸変異を検索した。23カ所のアミノ酸について順次検討したところ、1カ所のアミノ酸変異で低リン酸化状態にシフトした。従って、このアミノ酸のリン酸化の有無が、pRBの制御を外れたE2F1と生理的なE2F1の質的な違いの1つである可能性が示唆された。 2.pRBの制御を外れたE2Fによって特異的に活性化される新たなアポトーシス関連遺伝子として、Bim遺伝子が同定された。E2FによるBim遺伝子の発現誘導はPI3キナーゼ経路によって抑制されたが、Bimプロモーターの活性化は抑制されなかった。従って、PI3キナーゼ経路はmRNAレベルで作用しており、E2Fによる転写活性化は抑制しない可能性が示唆された。Bim遺伝子の3'非翻訳領域をルシフェラーゼ遺伝子の下流に接続してレポーターアッセイで調べたところ、PI3キナーゼ経路の活性化によりレポーターの活性が低下した。miRNAのマイクロアレイにより、PI3キナーゼ経路によって発現誘導され、Bim遺伝子の3'非翻訳領域に作用しうると予想されるmiRNAが5個同定された。従って、PI3キナーゼ経路はmiRNAの発現誘導を介して、Bim mRNAの発現を抑制している可能性が示唆された。
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