HSF(heat shock transcription factor)は真核生物に普遍的なストレス応答性転写調節タンパクである。その標的遺伝子は、HSF結合配列のHSE(heat shock element)を持つが、その塩基配列は多様性に富んでいる。一方、哺乳動物はストレス応答性HSF1の他に、発生過程や細胞分化に関与するHSF2とHSF4を持っている。本研究ではHSF-HSE相互作用に注目し、今年度は、「さまざまな生物のHSFとHSEサブタイプとの結合」および「ヒトHSF4遺伝子変異と白内障の関連」について検討した。 シロイヌナズナ、線虫、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュのHSFをHeLa細胞内で発現し、HSE特異的な転写調節について検討した。その結果、それぞれのHSFは異なるHSE特異性を持つことが示された。今後は、HSE特異性を決定する機能ドメインの同定や、HSE特異性の意義についての検討が必要である。一方、HSF4はレンズ白内障の原因遺伝子の1つである。現在までに先天性白内障に関連する6つのミスセンス変異が報告されている。また、HSF4遺伝子解析から、加齢性白内障に関連する2つのミスセンス変異が報告されている。これら8つの変異HSF4遺伝子を作製し、合成変異タンパクの生化学的性質、および、ヒトレンズ培養細胞内での転写調節能力について検討した。その結果、先天性白内障の5つの原因変異は、HSF4のDNA結合を阻害し、転写調節能力を低下させることが明らかになった。したがって、HSF4標的遺伝子(クリスタリンやレンズ繊維タンパク)のmRNA量の低下が白内障を引き起こすと考えられる。また、加齢性白内障の原因として報告されている2つのミスセンス変異は、HSF4のDNA結合および転写調節能力に影響を与えなかったことより、他の遺伝的要因や環境要因が関与していることが推察された。
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