両生類の変態は、短期間で幼生から成体へ体を作り替える生命現象である。この現象は甲状腺ホルモンによって制御されている。甲状腺ホルモン受容体であるTRαのmRNAは変態に伴い発現量が上昇するにも関わらず、タンパク質の発現量は一定に保たれている。本研究は、その翻訳抑制の分子機構を明らかにする事を目的としている。アフリカツメガエルのTRα mRNAの5'非翻訳領域に存在するORF(uORF)としては、上流側からuORF1、終止コドンを共有する2つのuORF(uORF2、uORF3)の計3つが存在する。本研究では5'-RACE法を用いて、無尾両生類3種、有尾両生類2種のTRα mRNA5'非翻訳領域の配列を新たに同定し、既知の5'非翻訳領域と比較した。uORF1は無尾両生類4種だけで保存されていた。また、uORF2は無尾両生類と有尾両生類1種では観察されたが、有尾両生類1種では保持されていなかった。一方、uORF3は脊椎動物でほぼ保存されている。本研究室で樹立したアフリカツメガエルの尾由来の細胞株にトランスフェクションさせ、TRα遺伝子uORFの下流に連結したルシフェラーゼ遺伝子の活性を定量することにより翻訳抑制活性を解析した。uORF3を導入した変異体では、変異を導入していない野生型と比較して翻訳量は11%に抑えられた。また、uORF3の開始コドンまたは終止コドンを除去する事でその翻訳抑制効果は観察されなかった。DNA塩基配列、アミノ酸配列をかえても同様の抑制効果が見られた。uORF1・2・3存在下では、野生型と比較して翻訳量は6%に抑えられた。しかし、uORF1の開始コドンを除去しても翻訳の抑制効果は保持されたままであった。
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