両生類の変態は、短期間で幼生から成体へ体を作り替える生命現象である。この現象は甲状腺ホルモンによって制御されている。甲状腺ホルモン受容体であるTRαのmRNAは変態に伴い発現量が上昇するにも関わらず、タンパク質の発現量は一定に保たれている。本研究は、その翻訳制御の分子機構を明らかにする事を目的としている。TRα 5'非翻訳領域を含むコンストラクトと含まないコンストラクトを作成し、細胞にトランスフェクションさせて、TRαのタンパク量を比較した。TRα 5'非翻訳領域を含むものは含まないものと比較して翻訳量が顕著に抑制されていた。しかし、mRNA量は両者で有意な差はなかった。この事から、TRα 5'非翻訳領域はTRα mRNAの翻訳を抑制する事が明らかになった。また、この翻訳抑制は細胞のみならず、in vitroの翻訳系においても同様の結果が得られた。次に、多くのTRα 5'非翻訳領域の欠損変異体を作成し、各々をルシフェラーゼ遺伝子に連結させ、細胞にトランスフェクションさせて、ルシフェラーゼ活性を調べることにより、翻訳抑制を担っている部位を同定した。TRαの翻訳の抑制には5'非翻訳領域の5箇所の部位が関与している事が明らかになった。5箇所のうち、両生類において高度に保存されているGCリッチな領域とuORFの2箇所の翻訳抑制活性を有する部位の1塩基置換変異体を作成し、詳細な解析を行った。GCリッチの領域は多くの1塩基置換変異により翻訳抑制活性が消失した。この事から、GCリッチの領域は塩基配列依存的に翻訳を抑制している事が示唆された。一方、uORFは1塩基置換変異によって翻訳抑制活性が影響を受けない事から、uORFの翻訳抑制活性の維持にはuORF構造を保つ事が重要である事が示された。
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