細胞内で合成されたタンパク質(或いは脂質、糖、核酸)はそれらを必要とする部位に配置されて初めてその機能を発揮することになる。このような細胞内での物質の移動は、ただ拡散に依存しているのではなく、モータータンパク質と細胞骨格を中心に構成される細胞内輸送システムに大きく依存している。特に神経細胞の軸索における様々な分子や細胞小器官の方向性を持った輸送にはこのシステムが不可欠で、細胞内輸送の異常が神経変性等様々な疾患の原因となることを示唆する研究報告も多い。本研究の期間中、我々はDLK-JNKシグナル系を切り口に、モータータンパク質或は細胞骨格を介した細胞内輸送制御の分子機構解明に向けた研究を進めて来た。24年度には、23年度までにDLK-JNKシグナル系がJIP1とKinesin-1の結合に与える影響について検討した結果を論文にまとめて発表した。 JIP1はDLKをはじめとするJNK活性化酵素及びJNKと結合することから、JNK活性化シグナルの足場と位置付けられていたが、後にモータータンパク質Kinesin-1と結合すると共に、Kinesin-1モーターの活性化に寄与することが報告され、種々のカーゴとKinesin-1を繋ぐアダプター分子として細胞内輸送を支えている可能性が指摘されている。我々はJNKの活性化やJIP1への結合がKinesin-1との結合に影響を及ぼすことはないものの、JIP1のリン酸化チロシン結合ドメイン(PTB)に結合するDLKやJI3がJIP1とキネシンの結合制御に関わっている可能性を指摘した。この論文発表の他には、DLK-JNK経路が細胞内輸送の足場となる微小管の安定性を制御する分子機構に関する仮説の検証を行い、JNKが特定の微小管制御タンパク質の安定性をリン酸化により変化させることを示す結果を得ている。
|