真核生物の遺伝子発現制御におけるクロマチンの構造と機能を解明するためには、ゲノムにおけるヌクレオソーム配置決定のメカニズムは重要な問題の一つである。本研究は、出芽酵母ゲノムおよびミニ染色体において、ヌクレオソームの配置を規定するシス因子(DNA構造因子)とトランス因子(クロマチン関連因子、ヒストンバリアント)を解析することによって、転写制御におけるヌクレオソームポジショニングのダイナミズムとその分子機構をin vivoで明らかにすることを目的としている。本年度は、以下のように研究を展開した。 1.PHO5の転写制御におけるヌクレオソーム機能とそのダイナミクスを規定する分子機構:ゲノムPHO5遺伝子座のプロモーター領域に、ヌクレオソーム形成を阻害または促進するDNA配列を挿入した一連の菌株を用いて、プロモーター領域のクロマチン構造を解析した。その結果、ヌクレオソームの形成と排除と転写制御との関係が明確に示された。 2.a細胞特異的遺伝子の転写抑制におけるヌクレオソームポジショニングのメカニズム:クロマチンリモデリング因子Isw2複合体の構成因子のなかで、Isw2とItc1はヌクレオソームポジショニングに必須であるが、Dls1とDpb4はポジショニングには関与していないことを明らかにした。これらの変異株を用いて、ヌクレオソームポジショニングの形成または喪失とmRNA量との相関性を解析した。 3.ヌクレオソーム配置と転写制御におけるヒトヒストンH3バリアントの機能解析:出芽酵母の二つのヒストンH3遺伝子座の一方にヒトH3バリアント(H3.1、H3.2、H3.3)遺伝子を導入するとともに、他方のH3遺伝子座を破壊した菌株の解析を進めた。遺伝子発現に及ぼす影響を調べたところ、減数分裂初期遺伝子HOP1の誘導発現に対して、各H3バリアントが異なる効果を与えることが示唆された。
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