PI3K様キナーゼ(PIKK)ファミリータンパク質は細胞機能制御において極めて重要なキナーゼ群であり、がん撲滅の観点からも世界中で注目を浴びている。昨年、国内外の複数のグループから「Tel2ファミリータンパク質が全ての種類のPIKKに結合する能力を有し、それらの機能を制御する」という報告が相次いでなされた。しかし、その分子機構に関しては未だ統一見解が全く得られていないのが現状である。 本研究では、分裂酵母をモデル生物として、Tel2によるPIKKの制御機構を明らかにすることを最終目的とし、Tel2によるPIKKの制御機構を、DNA複製・損傷応答において中心的な役割を果たすATM/ATRへの機能制御に焦点を絞って研究を実施した。 我々はDNA複製及び損傷チェックポイントに特異的に欠損を示すtel2変異株を取得済みである。今回、この変異型Tel2とRad3キナーゼの結合様式の変化を調べたところ、Tel2変異はTel2-Rad3の結合には全く異常を示さなかった。また、Tel2変異株でのRad3の存在量は、野生型のものと同程度であった。哺乳類細胞での解析により、Tel2ホモログはATR/ATMの安定化に関与することが報告されているが、少なくとも分裂酵母にはこの制御機構は存在しないことが分かった。 今後、Tel2変異がDNA複製及び損傷チェックポイントの活性化のどの局面に欠損を示すのか解析を継続する。
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