研究概要 |
本研究では、C.elegansの「匂い忌避行動の増強」を制御するドーパミンシグナル伝達に関わる遺伝子群を、分子遺伝学的解析で明らかにする事を目的としている。我々は、C.elegansを嫌いな匂い2-ノナノンで刺激すると、2-ノナノンに対する忌避行動が増強されるという興味深い神経機能の可塑性を発見し、さらにこの機能が神経伝達物質ドーパミンに制御されている事を明らかにしてきた。H22年度の研究では、まず、C.elegansの忌避行動増強に関与するドーパミン受容体dop-3が機能する細胞の同定を行った。dop-3変異体においてdop-3cDNAを特定の神経細胞のみに発現させて、dop-3変異体の2-ノナノン忌避増強異常という表現型が回復するかどうかを測定した。幾つもの神経細胞特異的な発現を検討した結果、左右一対の介在神経細胞RICでdop-3cDNAが発現することでdop-3変異体の2-ノナノン忌避増強異常が回復した事から、RIC細胞がドーパミン受容体dop-3が機能する細胞である事が強く示唆された。ドーパミンは哺乳類の脳において幾つかの重要な高次神経機能に関与しているにも関わらず、哺乳類の脳の極めて複雑な構造から、in vivoにおけるその作用メカニズムには不明な点が多い。今後はドーパミンがRIC細胞の活動に与える影響を明らかにする事で、ドーパミンが神経回路の機能または個体レベルの神経系活動を制御するメカニズムの一端を明らかにできると考えられる。この段階までの研究成果をまとめて、一流国際誌に発表した(Kimura et al., J.Neurosci., 2010)。
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