細胞が分裂期に入るとその遺伝情報を記録したDNA鎖は、娘細胞に正確に分配するために太くて短い分裂期染色体へとその形態を大きく変化させる。このダイナミック形態変化でDNAに作用して中心的役割を果たすのがコンデンシンとして知られる蛋白質複合体である。これまでに、酵母ゲノム中でコンデンシン結合のシス配列をリボソームRNA遺伝子(rDNA)領域に同定した。またその結合に必要な4種類の因子を同定した。面白いことに、この結合に必要な因子が欠失すると、rDNA領域での組換え頻度の上昇とコンデンシン結合部位近傍でのRNA polymerase II(Pol II)による転写の上昇が観られる。本年度は、コンデンシンのrDNAクロマチンへの結合が組換えと転写の抑制に関与する可能性について検討した。その結果、コンデンシン複合体を構成する遺伝子自体(smc2-157やycs4-1)に変異が生じる事でrDNA領域での組換え頻度が上昇する事、またコンデンシン結合部位近傍でのPol IIによる転写が上昇する事がわかった。さらに、rDNA領域にある複数の内在性Pol IIプロモーターからの転写をRT-PCR法で調べた結果、コンデンシン結合部位近辺では変異細胞になると比較的強い転写の脱抑制が観られたのに対し、結合部位から遠ざかるに従い脱抑制効果が観られなくなることがわかった。またコンデンシン変異によるSir2タンパクの結合分布の変化と、内在性プロモーターからの転写の脱抑制の変化の間に位置的な正の相関が見られた。これらのことからコンデンシンがSir2の結合に影響を与え、転写や組換えに関与し、rDNAリピート領域の安定性に関与している可能性が考えられた。
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