1.出芽酵母のFPKキナーゼはリン脂質フリッパーゼを活性化する新規因子として当研究室で同定された。FPK欠損変異株はトリプトファントランスポーターの局在異常によるトリプトファン要求性を引き起こす。この現象を詳細に解析することにより、膜リン脂質非対称分布の生理的意義を解明できると考え、FPK欠損変異によるトリプトファン要求性を抑圧するマルチコピーサプレッサーの遺伝学的スクリーニングを行っている。既に、脂質のダイナミクスを制御する因子や輸送タンパク質の修飾に関わる因子を同定し、膜リン脂質非対称分布が細胞内小胞輸送を調節している可能性を見出している。さらにスクリーニングを継続することにより、基礎生物学の大きな課題の一つである膜リン脂質非対称分布の本質に迫れると考えている。 2.FPKキナーゼが制御するリン脂質フリッパーゼは、細胞内小胞輸送に関わる低分子量Gタンパク質Arfの機能と密接に関与している。当研究室では特にARFの調節因子の一つであるGCS1の機能に着目し、GCS1の新規遺伝子変異の単離に成功している。この変異の解析により、リン脂質フリッパーゼによる細胞内小胞輸送の制御メカニズムの一端を明らかにできると考えている。 膜リン脂質非対称分布は細胞内小胞輸送や細胞極性形成を制御することにより、様々な疾患に関与していると推測されていることから、本研究によって見出された因子や機能を解明できた因子は、そのような疾患の発症メカニズムや治療薬の開発等に結びつく可能性を秘めていると考えている。
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