本研究は、染色体を安定に維持する機構(染色体安定性システム)に関与する分子を同定し、このシステムを構成する分子ネットワークを明らかにすることを目的とする。平成20年度は、このシステムの代表的な機構である紡錘体チェックポイントに関与する分子と結合する分子のスクリーニングを行った。まず紡錘体チェックポイントに関与する分子を、Flagタグがついたタンパク質として発現するヒトHEK293細胞を樹立した。この細胞の抽出液を用いてFlag抗体による免疫沈降を行い、免疫沈降産物に含まれる分子をマススペクトロメトリーで同定した。同定された分子について、細胞内での発現や局在を観察することにより、染色体安定性に関与する可能性のある分子を絞り込み、それらの機能を解析した。このうち酵母MAD2のヒトホモローグの1つであるMAD2L2と結合する分子として、新規分子C13orf8を同定した。C13orf8は、Znフィンガーを有する812アミノ酸よりなる分子で、Znフィンガー以外にもいくつかの特徴的な繰り返し配列をもつことがわかった。また免疫染色により、細胞分裂期に染色体および紡錘体に局在することが明らかになった。ヒトHeLa細胞においてC13orf8をノックダウンしたところ、細胞分裂に際して染色体の赤道面への整列の異常が認められ、キネトコア-微小管結合に異常があることが示唆された。これらの結果より、C13orf8は染色体分配に重要な役割を果たしていることが予想され、その異常はがん化と関連している可能性が考えられた。
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