新たに転写されたmRNAを効率よくタンパク質に翻訳する機構は、様々な刺激に応答して活性化された遺伝子を適切なタイミングで速やかに機能させるためとりわけ重要であり、ストレス応答、多細胞生物における細胞分化や形態形成といった高次生命機能発現の基盤となる。転写の場である核と翻訳の場である細胞質とが核膜により物理的に隔てられている真核生物では、このような時空間的に制御された遺伝子発現を可能にするため、mRNAの転写、プロセシング、核外輸送、翻訳といった、核および細胞質で起こる遺伝子発現の諸段階に関わる因子が相互に緊密に連携し、各素過程が機能的に共役している。TREX複合体は、mRNAの転写、プロセシングと核外輸送の過程を機能的に共役させる因子として知られているが、翻訳過程においてどのような役割を果たしているのかは、これまでに明らかにされていない。本年度は、熱ストレス下におけるHSP70遺伝子発現におけるヒトTREX複合体の機能解析を進め、免疫沈降法により結合因子を探索するとともに、TREX複合体構成因子の細胞内動態をヘテロカリオンアッセイにより解析した。その結果、複数種のタンパク質因子がTREX複合体と共免疫沈降されることやThoc5およびhHpr1といったTREX複合体構成因子が、核細胞質間を恒常的にシャトルしていることを見出した。複合体構成因子が核と細胞質間をシャトルすることから、翻訳を含めた細胞質における遺伝子発現の過程において、TREX複合体が何らかの役割を果たしていることが推察された。今後、実験計画に示したレポーターアッセイを実施するとともに、結合タンパク質をマス解析により同定し、TREX複合体の翻訳における役割を明らかにする予定である。
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