上皮増殖因子(EGF)ファミリー総てのメンバーはI型の膜タンパク質として合成され、細胞膜に発現する。そして刺激に応答し、細胞外領域がプロセシングを受けEGF様増殖因子を細胞外へ遊離する(ectodomain shedding)。遊離されたEGF増殖因子はEGF受容体を活性化し細胞内ヘシグナルを伝達する。このよく知られた機能に対して私達は、EGFファミリー分子がある状況下で、細胞膜から核膜へと局在変化すること、そして核膜において転写制御に関与することを明らかにした。そこで、その核膜局在化したEGFファミリー分子の生理的機能を明らかにするため、本研究を開始した。 EGFファミリー分子であるamphiregulinは悪性度の高い乳がんにおいて発現が亢進していることが知られている。そこで、刺激非存在下において核膜へ局在化し転写を抑制するamphiregulin変異体を作成し、核膜局在化amphiregulinの機能を解析することにした。乳がん培養細胞株のamphiregulinの発現量を探り、発現量が低い株にamphiregulin変異体を強制発現させたところ、ゲノムワイドなヒストン修飾の変化および転写抑制がおこり、mRNA発現プロファイルの変化は観察されないにも関わらず、胞増殖が抑制され、細胞遊走能が亢進することが明らかになった。現在、核膜局在化したamphiregulinによる転写抑制、ヒストン修飾変化および、細胞運動能の亢進がどのような分子メカニズムにより引き起こされているのか、細胞骨格の変化を含めて探っているところである。
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