私達は上皮増殖因子(EGF)ファミリーのHE-EGFおよびamphiregulinがある状況下で、細胞膜から核膜へと局在変化することを見出したため、核膜局在化したEGFファミリー分子の生理的機能を明らかにすることを目的として、本研究を行ってきた。昨年度までに、EGFファミリー分子amphiregulinが核膜に局在化することにより、ゲノムワイドにヒストンH3の9番目のリジンのメチル化(H3K9me3)が亢進すること、そしてさらに同時に遊走能が亢進することを見出していた。そこで今年度は、核膜局在化amphiregulhがどのように、細胞運動能を制御しえるのか、その分子メカニズムを探ろた。その結果、Boyden chamber assayおよび、wound healing assayにおいて、(1)H3K9のメチル化を誘導することにより細胞遊走が活性化されること、(2)H3K9のメチル化を阻害することにより細胞遊走が抑えられることを見出した。また、運動方向に対するゴルジ体の位置を指標として細胞極性を調べたところ、H3K9のメチル化酵素を阻害することにより、細胞運動に必須な細胞極性形成ができなくなることを見いだした。これらのことは、クロマチン構造変化そのものが、細胞遊走を制御していることを示すものでる。これは、これまでに報告のない、新規の細胞運動の制御機構であると考えられ、細胞生物学的に非常に意義が大きい。
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