研究課題
生物は環境変動(ストレス)に応答して生命機能を制御し、新しい環境に適応する。研究代表者は分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)を用い、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH), Tdh1が酸化ストレスセンサーとして働き、ストレス応答性MAPキナーゼ(SAPK)経路を活性化することを既に報告した。また、タンパク質キナーゼであるtarget of rapamyc in(TOR)は機能的に異なる複合体、TORC1およびTORC2を形成するが、TORC2の構成因子であるSin1がGAPDHと結合することを見いだした。そこで、本年度の研究はTdh1によるTORC2の制御機構の解析を目的として行った。21年度の成果として、1、酸化ストレスがTdh1とSin1の結合を強化する;2、酸化ストレス下でTORC2の下流因子であるGad8のリン酸化レベルおよび活性が上昇する;3、このGad8の活性化にはTdh1の活性中心にあるシステイン残基が重要である;4、tdh1遺伝子破壊はTORC2のin vitro活性に影響しないことを見いだした。また、カリフォルニア大学デービス校塩崎一裕教授と共同でTORC2の上流因子として低分子量型Gタンパク質であるRyh1を同定した。GAPDHは解糖系酵素を含む様々な機能を有する多機能酵素であり、研究代表者はGAPDHが酸化ストレスの情報伝達経路を制御することを見いだした。GAPDH, SAPK, TORC2は酵母から哺乳類まで広く真核生物間で保存されており、本研究はヒトなどの高等真核生物におけるGAPDHおよびストレス情報伝達経路を理解する基礎的知見を提供するという点で意義深い。また、いずれの生物種でも同定されていないTORC2の上流因子(Tdh1およびRyh1)を発見した点は本研究の重要性を示す。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (4件)
Methods in Enzymology, vol.471, "Two-Component Signaling Systems, Part C" (Edit.by M.I.Simon, B.R.Crane, A.Crane)(Elsevier Inc. (Academic Press))
ページ: 279-289