研究概要 |
生物を取り巻く環境は常に変動しており、生物はこうした環境変動(ストレス)に応答して生命機能を制御し、新しい環境に順応する。研究代表者は分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)を用い、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH),であるTdh1が、ストレス応答性MAPキナーゼ経路を活性化することを既に報告した。また、タンパク質キナーゼであるtarget of rapamycin(TOR)を含む複合体であるTORC2の構成因子であるSin1がTdh1と結合することを見いだした。さらに、本計画の初年度には、低分子量型Gタンパク質であるRyh1がTORC2-Gad8経路の制御因子であることが判明した。 Tdh1による制御機構を探る上でRyh1の機能の解明が不可欠であると考え、22年度は、主にRyh1によるTORC2-Gad8経路の制御に関して探求した。そして以下の結果が得られた:1,不活性型Ryh1がSin1と結合する;2,不活性型Ryh1発現株ではGad8がSin1から解離する;3,ryh1^+,tdh1^+遺伝子破壊株およびRyh1活性化因子の欠損株ではTORC2-Gad8経路のH_2O_2に対する応答が消失する;4,Tdh1がRyh1の活性化因子と結合している。従って、Ryh1はGad8とTORC2の会合/解離を制御すると考えられ、Tdh1がこの過程に関与する可能性が示唆された。 GAPDHは多機能酵素であり、研究代表者はGAPDHが酸化ストレスの情報伝達経路を制御することを見いだした。GAPDH,TORC2は真核生物間で保存されており、本研究はヒトなどの高等真核生におけるGAPDHおよびストレス情報伝達経路を理解する基礎的知見を提供する点で意義深い。また、いずれの生物種でも同定されていないTORC2の制御因子を発見した点は本研究の重要な成果である。
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