研究概要 |
生物を取り巻く環境は常に変動しており、生物はこうした環境変動(ストレス)に応答して生命機能を制御し、新しい環境に適応する。本研究の目的は、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)のグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)であるTdh1による、MAPKKK複合体(MTKC)およびターゲットオブラパマイシン複合体2(TORC2)の制御機構を解析することにある。 【平成23年度の成果】 TORC2経路: tdh1^+遺伝子破壊株と変異型Tdh1(Tdh1^<C152S>)発現株を比較した結果、Tdh1によるTORC2制御には、(1)Cys^<152>に依存したH_2O_2応答に関与する機構と(2)Cys^<152>に依存しない機構があることが明らかになった。また、Tdh1はTORC2の構成因子であるSin1に加え、TORC2の基質であるGad8と結合することが判明した。H_2O_2処理で、(a)Tdh1-Sin1の結合が強化される、(b)Gad8のリン酸化レベルが上昇するという過去の結果と合わせ、Tdh1の機能のひとつはGad8をTORC2にリクルートすることであると結論づけた。 SAPK経路:分裂酵母のMTKCの構成因子を解析する過程で、Wis4とWin1、および、これらMAPKKKと基質であるwis1が結合することを見出した。また、高浸透圧処理によりTdh1同様、wis1がMTKCより解離することが判明した。これ迄の結果と合わせると、MTKCはWis4,Win1およびこれらの制御因子であるMcs4から成る安定したヘテロ複合体であると考えられた。 研究代表者は分裂酵母を用い、解糖系酵素であるGAPDHによるストレス情報伝達経路の制御機構を解析した。本研究はヒトなどの高等真核生物におけるGAPDHおよびストレス情報伝達経路を理解する基礎的知見を提供するという点で意義深い。
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