細胞運動は、発生過程や免疫応答などの正常な生命活動だけでなく、癌の浸潤・転移過程など様々な病気の場面でも観察され、その分子メカニズムを明らかにすることは、これらの現象を理解するうえで、極めて重要だと考えられる。外界から刺激があると、細胞は刺激の方向を認識し、前後の極性を形成し、移動を開始する。これまでに我々は、ARFが好中球の細胞運動に極めて重要な働きをすること、さらにARFの活性化因子であるGBF1が、細胞運動に深く関与すると共に、その際のARFの活性化にも関与していることを見出している。そこで本研究では、細胞が運動する際、GBF1が、どのように活性化されるのか、またGBF1によって活性化されたARFが、どのように細胞運動に関わっているのかを明らかにすると共に、GBF1遺伝子欠損マウスを作製し、生体内においても、培養細胞と同様のメカニズムが使われているのかを検証し、細胞運動時に見られる極性形成のメカニズムの一端を明らかにすることで、細胞運動の分子メカニズムの解明を目指している。 そこで本年度は、GBF1の活性化メカニズムについて調べた。好中球様細胞に分化させたHL-60細胞をPI3Kγの阻害剤で処理すると、fMLPで刺激を与えた際の活性型ARF1の量が著しく減少し、細胞前端部へのARF1の局在も著しく減少した。また、GBF1の細胞前端部への局在も著しく減少していた。さらに、PI3Kγの産物が、GBF1と直接結合することができるのか調べるために、GBF1を5つの領域に分け、それぞれのタンパク質とイノシトールリン脂質との結合を調べた。その結果、Sec7ドメインのC末端側に位置する領域が、細胞の前端部へ局在することが知られているPIP_3と結合することが明らかとなった。以上のことから、GBF1とPIP_3との結合が、GBF1の活性化に関与していることが示唆された。
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