申請者はこれまでに、GLO1蛋白質が、神経幹細胞が豊富に存在する脳室帯で非常に強く発現していることを見出した。GLO1は糖代謝産物メチルグリオキサールの解毒酵素である。細胞内にメチルグリオキサールが過剰に存在すると、蛋白質に結合してアルグピリミジン構造を形成する。そこで、脳組織におけるアルグピリミジンの分布を調べたところ、その分布は一様ではなく、分化した神経細胞に多く存在し、脳室帯ではわずかしか検出されなかった。つまり、GLO1が強く発現する脳室帯ではメチルグリオキサール修飾のひとつアルグピリミジン形成(以後、アルグピリミジン化と呼ぶ)があまり起こっておらず、逆にGLO1の発現量が低い神経細胞ではアルグピリミジンが多く形成していた。また、非常に興味深いことに、アルグピリミジンの局在は主に神経細胞の核に見られ、神経細胞の20種類以上の核タンパク質がアルグピリミジン化を受けていることが明らかとなった。生化学的な解析から、アルグピリミジン化を受けるタンパク質のひとつがクロマチンリモデリング因子SWI/SNF複合体の構成因子であることを明らかにした。分化の際にその修飾が変動することから、まず、株化培養細胞の分化誘導系を用いて、クロマチンリモデリング因子SWI/SNF複合体の分化における役割を解析した。その結果、構成因子のひとつをノックダウンさせるとSWI/SNF複合体が正常に形成されず、分化が阻害されることがわかった。
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