D.discoideumの発生過程で粘菌アメーバが集合し多細胞性の移動体が形成されると、予定胞子細胞が分化し、この細胞には、胞子壁の構成成分を含む分泌顆粒PSVが形成される。移動体から予定胞子細胞を分散し、塩溶液中で震盪培養すると予定胞子細胞の脱分化が進行し、PSVも消失する。D.discoideum、AX-2株を用いてこのPSV消失過程を電子顕微鏡を用いて解析したところ、移動体分散約2時間後からリソソームとPSVとの融合がみられ、その後、PSVの内容物が分解される様子が観察された。分散約5時間後には、その内容がほぼ完全に分解されたリソソームが多数みられた。従って、予定胞子細胞の脱分化に伴うPSVの消失は、ホルモンなどの分泌顆粒が分解される現象として動物細胞でよく知られている"クリノファジー"によるものであることが明らかになった。電子顕微鏡観察によりこの過程では、オートファゴソームの形成が見られないことから、PSVの消失にはオートファジーは関与していないと考えられる。次に、PSVのクリノファジーの分子機構について解析するため、PSV抗原を蛍光抗体法により検出して、薬剤のPSV消失に及ぼす効果について調べた。その結果、V-ATPase阻害剤のバフィロマイシンA1とPI3キナーゼ阻害剤のウォルトマニンが、PSVの消失を阻害することを見いだした。バフィロマイシンA1は、PSVと融合したリソソームの内腔pHを上昇させることによって、PSV抗原の分解を阻害すると考えられる。ウォルトマニンの阻害は、クリノファジーにエンドソーム系が関与していることを示唆している。次に、移動体分散2時間後の粘菌細胞からPSV膜を単離し、二次元電気泳動法でPSV膜タンパク質を解析することを試みている。現在、分散後2時間の移動体細胞からPSVを密度勾配遠心法により効率よく単離する方法を検討している。
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