研究概要 |
本研究の目的はクリノファジーの分子機構を明らかにすることである。クリノファジーとは、分泌顆粒にリソソームが直接融合することにより、ホルモンなど分泌顆粒内の物質が分解される現象をいう。この過程がホルモンなどの分泌の調節に重要であることはよく知られている。しかし、その分子機構は未解明のままである。我々は、細胞性粘菌Doctyostelium discoideumの分泌顆粒であるPSVが、細胞の脱分化過程でクリノファジーによって一斉に分解されることを見いだした。細胞性粘菌の発生過程においては、多細胞からなる移動体が形成され、予定胞子細胞、予定柄細胞への分化が起こる。予定胞子細胞は、分化特異的な分泌顆粒であるPSVを持つ。移動体から予定胞子細胞を分散すると予定胞子細胞の脱分化が進行し、分化形質であるPSVも消失する。このPSV消失過程を電子顕微鏡を用いて解析したところ、移動体分散約2時間後からリソソーム様の構造とPSVとの融合がみられ、その後、PSVの内容物が分解される様子が観察された。本研究では、細胞性粘菌の実験系を用いてクリノファジーの過程の分子機構の解明を行い、さらに、その知見に基づいて、哺乳類におけるクリノファジーの研究を展開し、クリノファジーの全体像を明らかにすることを目的としている。平成22年度の研究によって、PSVのクリノファジー過程においては、リソソームだけでなくエンドソームもPSVと融合することが明らかになった。本年度は、細胞性粘菌のPSV消失時におこるクリノファジーの過程をさらに詳細に解析するため、オクラホマ大学、健康科学センターWest教授と共同して、PSVに含まれる分泌タンパク質sp65、sp85の遺伝子座に各々、GFP,YFPタグを導入したAX-3株を用いてPSVをラベルし、同時に、リソソームマーカーのカテプシンDとエンドソームマーカーのp80に対する抗体を用いて、PSV消失時におこるリソソームとエンドソームの挙動を追跡した。その結果、エンドソーム、リソソームが細胞分散後約2時間のほぼ同じ時期にPSVと融合し、そのあと、内容物のsp65,sp85が分解されることが明確に示された。プロテオーム解析については、現在、分散後2時間の移動体細胞からPSVを密度勾配遠心法により効率よく単離する方法を引きつづき検討しているが、まだ、十分な解決に至っていない。sp65-GFP,sp85-YFPを指標にPSVの分離を検討している。クリノファジーの阻害剤の探索については、薬剤のライブラリーの構築が終わり、スクリーニングを始めている。以上の結果については、本年度、10月の国際学会で発表を予定している。
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