哺乳類骨格筋形成の最終分化過程では筋芽細胞の融合による筋繊維形成が起こる一方で、多くの筋芽細胞は筋繊維形成に加わることなくアポトーシスを起こして消滅していく。一般に分化過程に伴うアポトーシスは不要細胞の除去のために起こると理解される場合が多いが、筋繊維形成と同時に起こるアポトーシスがどのような意義を持つのかは不明である上、これが起こる仕組みも明らかではない。私たちは筋芽細胞最終分化過程に小胞体ストレスが関与していることを見出し、小胞体ストレス応答システムに焦点を当ててアポトーシスが起こる意義やその制御機構を明らかにしていくことを目指している。この応答には、小胞体ストレスの存在下で小胞体ストレスセンサーから転写因子に変換するATF6が関わることから、転写因子型ATF6による転写調節がアポトーシスの引き金になる可能性を検討した。 マウス筋芽細胞株において転写因子型ATF6を強制発現させる条件を確立し、細胞の生死に与える影響を解析した。転写因子型ATF6は核に局在し、筋芽細胞の細胞死を引き起こした。このとき小胞体上ではカスパーゼ12が活性化し、さらにエフェクター型カスパーゼが活性化してタンパク質の切断を起こしていることを確認した。Bcl-xLの共発現はこのATF6依存性の細胞死を抑制した。これらの結果はここで見られる細胞死がアポトーシスであること、カスパーゼファミリーとBcl-2ファミリーによってそれぞれ正負に制御されていることを示唆する。転写因子型ATF6の転写活性を抑制する優性阻害性ATF6断片を共発現させるとアポトーシスが阻害されることから、転写因子型ATF6のアポトーシス誘導活性はその転写調節機能に依存していることが示唆された。
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