哺乳類骨格筋形成の最終分化過程では筋芽細胞の融合による筋繊維形成が起こる一方で、一部の筋芽細胞は筋繊維形成に加わることなくアポトーシスを起こして消滅していく。私たちは以前、筋繊維形成とアポトーシスの両過程に小胞体ストレス応答が関与していることを見出した。この応答には小胞体ストレスセンサーであり転写因子でもあるATF6の活性化が重要であることを示唆するデータを得ている。今年度は、ATF6がどのようにして細胞のアポトーシスを起こすのかという点に焦点を当てて研究を実施し、ATF6によって誘導されるタンパク質がアポトーシス制御タンパク質の量的変動を介してアポトーシスを誘導することを見出した。 マウス筋芽細胞株において活性化型ATF6を強制発現させると活性化型ATF6は核に局在し、筋芽細胞のアポトーシスを引き起こす。このとき活性化型ATF6の働きによって発現が誘導される遺伝子の探索をDNAマイクロアレイ解析によって行ない、発現誘導が顕著な44遺伝子を同定した。この44遺伝子に含まれるWWドメイン結合タンパク質1(WBP1)遺伝子の産物が筋芽細胞においてアポトーシス誘導活性を示すことが分かった。WBP1の細胞内機能はこれまで解明されていない。活性化型ATF6はWBP1の転写を2.5倍以上増加させた。WBP1タンパク質は生細胞中ではウエスタンブロットによる検出限界程度しか存在しないが、活性化型ATF6の強制発現や小胞体ストレス誘導剤によってアポトーシスが引き起こされるときに顕著に増加した。従って、小胞体ストレスによって活性化されるATF6はWBP1の発現誘導を介してアポトーシスを起こすことが示唆された。また、WBP1の出現に依存してアポトーシス抑制タンパク質であるMcl-1が特異的に消失することから、Mcl-1レベルの低下がアポトーシスの開始にとって決定的であることも示唆された。
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