粘菌オーガナイザーの機能が欠失していると考えられるマルチチップ株(mt変異体)について、変異遺伝子を同定するためLibrary complementation、REMIによるサプレッサースクリーニングを行い、20株ほどの候補に対してシークエンス解析により遺伝子を同定、さらに遺伝子破壊等によって解析を行ったが、結果的にターゲットは同定できなかった。しかしながら、その過程で調べた遺伝子の一つであるtgrB1遺伝子がmt変異体でほとんど発現がないことをつきとめた。tgrB1は細胞表面に存在する細胞識別因子である。サプレッサーのほとんどでtgrB1の発現が回復していることから、mt変異体ではtgrB1の発現制御に欠陥があることが示唆された。変異遺伝子の同定には全ゲノムシークエンスが必要と判断し、平成22年度は基礎生物学研究所との共同利用研究で実施する予定である。 pstA細胞で特異的に発現するecmA遺伝子のプロモーター解析により同定したシス領域(R3R4)について、結合因子を精製しマス分析により候補転写因子を数種類同定した。そのなかで、すでにecmAのリプレッサーとして報告したStatCと、新規転写因子のRcdKについて、遺伝子破壊や一分子蛍光分析システムによる相互作用などを解析中である。 pstA2マーカー候補遺伝子のSSK861(omt12)については、GFP/RFPによる発現系が構築でき、pstA1とのダブルラベルにより、pstA1とpstA2はことなる細胞群であることを明らかにできた。さらにpstA2はすでに増殖期で分化していることも明らかになった。これはいままで粘菌の分化は飢餓処理後であるという常識を覆す大発見である。pstA2の増殖期での分化は、娘細胞、孫細胞にomt12の発現がうけつがれることから、エピジェネティックな転写制御が関わっていることが予測された。
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