脊椎動物は、発生初期にBMPシグナルの勾配によって背腹軸を確立することがわかっているが、この勾配情報が、後期胚から幼生期においてどのような機構で実際の形態として背腹パターンが形成されるかについてはほとんど理解が進んでいない。我々は背側の体型や鰭、側線、色素パターンなどの外部形態が体節形成期以降に体幹部全体にわたって腹側化するユニークな変異体メダカDouble anal fin(Da)を利用してこのしくみを調べた。 Daではzic1とzic4の発現が体節特異的に低下する。zic1/4はゲノム中に近接する転写因子で、アミノ酸をコードする領域には変異はみられないが、近傍の領域に40kb以上の巨大なトランスポゾンが挿入されていた。実際にトランスポゾンの遠位にはconserved non coding elementsがあり、これを欠失させたBACを導入するとzicのレポーター遺伝子の発現が体節特異的に失われた。さらにDaに対して正常なBACを導入すると体節での発現や表現型が回復した。このことからDaはzic1/4の体節エンハンサーの変異体であることがわかった。実際に野生型の体節をDaに移植すると移植部位特異的に鰭の位置や色素パターンが野生型に回復した。また、体節背側でのzicの発現は初期に周囲からのBMPシグナルによって規定されること、一方発生後期にはその発現が自律的に固定されることを見出した。 以上から、脊椎動物の外部形態の背腹パターンは、初期の背腹勾配によって直接作られるのではなく、いったん体節にzic1/4を介して背腹情報が二値的な背腹情報として集約され、体節由来細胞を介してつくられることがわかった。またおそらく一生涯をパターニングし続けることがわかった。このような時間的にも空間的にも規模の大きい発現ドメインはHox以外に知られておらず、からだ作りの新しいしくみが明らかとなった。
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