血管新生は血管内皮細胞において多くの細胞生物学的プロセスが協調的に作用することにより進行する。しかし、そのような細胞生物学的プロセスを調節する分子的メカニズムは明らかにされていない。本研究は、血管新生に必須の分子であるFoxo1転写因子の機能を明らかにすることにより、血管新生の細胞生物学的調節機構の解明を目指す。昨年度は、ES細胞から分化誘導した血管前駆細胞をI型コラーゲンゲル内で3次元培養して得られる血管様構造の解析を行い、VEGFに依存した内皮細胞の伸長作用と血管様構造の形成にFoxo1が必要であることを報告した。 本年度は、内皮細胞の形態調節に関与するFoxo1標的遺伝子の探索を行うために、野生型内皮細胞およびFoxo1欠損内皮細胞、Foxo1もしくはFoxo3を強制発現させた内皮細胞における遺伝子発現プロファイルを、DNAマイクロアレイを用いて作成した。遺伝子発現誘導により血管内皮細胞の形態調節異常をレスキューする実験系を確立し、候補遺伝子のスクリーニングを継続的に進めている。 血管内皮細胞特異的に遺伝子発現を誘導できるプロモーター・エンハンサーは内皮細胞の分化過程を特異的に操作するために有用なツールである。血管内皮細胞に特異的であると報告されているMef2cエンハンサー(F10-44)のES細胞分化系における活性について検討したところ、初期の血管前駆細胞から血管内皮細胞にいたる分化過程でF10-44がエンハンサー活性を有することを明らかにした。F10-44を利用したタイムラプス解析により、(1)中胚葉における血管前駆細胞の発生、(2)血管前駆細胞から内皮細胞への分化決定、(3)内皮細胞の運動と接着による血管新生、までの一連の過程を試験管内で観察する実験系を確立した。この実験系を用いて、ES細胞からの血管様構造の形成過程を詳細に解析する予定である。
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