両生類は脊椎動物の中で陸上環境に適応した最も原始的な動物群であり、その進化において体外受精から体内受精へ受精様式の改変が起こったことが示唆されている。私達は、輸卵管から分泌されて卵ジェリー層に蓄積される精子運動開始因子(SMIS)による精子運動開始が、イモリの体内受精の成立に必須であることを発見した。この現象は両生類の体内受精の確立に大きく寄与した可能性が考えられるが、この事を検証するために、本研究は、SMISとこれをコードする遺伝子を手がかりとして、輸卵管分泌に依存した精子運動開始機構の、両生類における普遍性を検討する。このためにまず、SMIS候補遺伝子を単離した。SMISにおいて既知のN末端アミノ酸配列を基にDNAプライマーを設計し、RT-PCR法を行ったが、SMIS遺伝子の一部と考えられる配列を持つDNA断片は得られなかった。そこで、ジェリー層抽出液を二次元電気泳動で展開してSMISを高濃縮し、トリプシンによって断片化して逆相クロマトグラフィーにより2種類のペプチドを精製した。それぞれをエドマン分解してN末端の10アミノ酸配列を解読し、新たにDNAプライマーを設計した。排卵誘発した雌イモリの輸卵管から精製したmRNAを鋳型としてRT-PCR法を行ったところ、それぞれのアミノ酸配列を共通のフレームにコードする147アミノ酸をコードする約800bpのcDNA断片を得る事に成功した。平行して、両生類におけるSMISの普遍性を検討するために、抗SMIS抗体を用いてアフリカツメガエルとトウホクサンショウウオの卵ジェリー層をイムノブロット解析し、トウホクサンショウウオで、分子量約18kDa(pI=7.5)のスポットを検出した。アフリカツメガエルでは持異的なスポットは検出されなかった。この結果は、本研究におけるイムノブロット解析の有用性を示すものである。尚、ヒキガエルでは、次年度での再検討を予定している。
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