本研究課題の目的はSERA遺伝子ファミリーを構成する遺伝子やタンパク質分子を用いて、マラリア原虫の宿主域や、宿主からの免疫応答を原虫が回避するメカニズムを解析し、SERAが関与するマラリア原虫の寄生適応の分子基盤を明らかにすることにある。 本年度は(1)サルマラリア原虫のSERA遺伝子の発現解析、(2)げっ歯類マラリア原虫P.chabaudiとサルマラリア原虫P.inuiのSERA遺伝子の多型解析の2項目について検討を行う予定であった。しかしながら、(1)では、解析に使用する血液試料に多重感染が見つかったために解析を断念した。代わりに、SERAの進化過程の考察に必須である、マラリア原虫の進化系統関係の解析をアピコプラストゲノム(~35kb)により行った。タンパク質をコードする30遺伝子配列を用いて解析を行った結果、これまでに系統位置が明確ではなかったヒトを宿主とする卵形マラリア原虫P.ovaleが、げっ歯類マラリア原虫に近縁であることが判明した。卵形マラリア原虫P.ovaleのSERA分子は7つあり、げっ歯類マラリア原虫の5つより多く、霊長類へと宿主域を広げたことにSERAの多様化が関係していたというこれまでの解析からの考察と矛盾しない結果が得られた。(2)のげっ歯類マラリア原虫P.chabaudiのSERAの多型を霊長類マラリア原虫のものと比較したところ、P.chabaudiの多型はサルマラリア原虫P.cynomolgiやP.inuiよりも小さく、霊長類マラリア原虫ではSERAが宿主からの免疫応答を原虫が回避するメカニズムにより深く関与している可能性が示唆された。
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